大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)749号 判決

主文

原判決を破毀する。

本件を東京高等裁判所に差戻す。

理由

職権を以て、調査するに原判決は、その認定の事実に對して、同法第一八六條第二項を適用して、被告人等を處斷しているのであるが、同條同項にいわゆる賭博開帳の罪は、利益を得る目的をもって、賭博を爲さしめる場所を開設する罪であり、その利益を得る目的とは、その賭場において、賭博をする者から、寺錢、または手數料等の名義をもって、賭場開設の對價として、不法な財産的利得をしようとする意思のあることをいうのである。原判決の認定するところを見るに、被告人久保田正信、同志村三郎は共謀の上、石炭空箱二個、木製小箱一個、ピンセット三挺の外、灯火の用意を整え、昭和二三年五月九日午後八時三〇分頃から同日午後九時三〇分頃迄の間、横浜市鶴見區鶴見町二七九番地先道路上において、通行の不定多數人を集め、俗に「もみ賭博」又は「傳助賭博」と稱する賭博場を開設し、第一審相被告人伊藤陽平等をして、金錢を賭せしめ、被告人等も自ら親としてその相手方となって該賭博に参加すると共に、判示のごとき技巧を用いて、右賭博の結果を概して親の有利に歸せしむる方法により、もって、利を圖ったというのである。すなわち、原判決の認定する圖利とは、自ら賭博の相手方となり、かつ概して自己が勝者となるの技巧を用いて、賭博に勝つことによって、賭錢を收得することを目的としたというのであって、賭場開設の對價としての利益の收得を目的としたものでないことは、原判示自體において、明らかであって、かくのごとき利益の收得は、いわゆる賭博開帳罪における圖利に該當しないことは、前段説明するところによって明瞭である。從って右被告人等の所爲につき、刑法第一八六條第二項賭博開帳罪の規定を適用し、又「さくら」となって、かゝる行爲を容易ならしめたという被告人鈴木清吉の所爲につき、同罪の幇助をもって問擬した原判決には、舊刑訴第四一〇條第一九號に該當する違法あり、破毀を免れないものといわなければならない。

よって、辯護人中村善一の上告趣意に對する判斷を省略し刑法施行法第二條、舊刑訴第四四七條、第四四八條ノ二を適用して、主文のとおり判決する。

右は、全裁判官一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例